「おなじことにや」の「おなじ」の活用形は?
寛平の歌合に、「初雁」を、友則、
春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴くなる秋霧の上に
と詠める、左方にてありけるに、五文字を詠みたりける時、右方の人、声々に笑ひけり。さて次の句に、「かすみていにし」と言ひけるにこそ、音もせずなりにけれ。同じことにや。
能は歌詠みの後半です。
前半の花園の左大臣と侍の話のあとに、紀友則が歌合わせで詠んだ「春霞」の歌のことが書かれ、末尾に、「同じことであろうか」と締めくくられているのです。
何が同じなのか?
学習課題ノートにある問題です。
その解答例は、
季節外れのものから詠み出し、歌題の季節に至るという詠み手の巧みさで、聞き手の意表をついた点。
とあります。
どちらも歌題が、秋の景物でありながら、春の景物から詠みおこし、季節をまたいで秋の景物を歌った歌としてまとめているところに、ウィットに富んだおもしろさがあるという点で共通しているわけです。
さて、この部分で質問メールが来ました。
「同じこと」の同じは、品詞分解のpdfでは、終止形になっていたが、どうして「同じき」ではないのか。
形容詞シク活用なのだから、「おなじきこと」になるべきではないか、という指摘です。
良い着眼ですね。
実は、「同じ」という形容詞は少し変わったところがあるのです。
用例を見ていくと、連体形は、「おなじき」と「おなじ」の二通りあるのです。
むしろ「おなじ」の方が用例は多いのです。
今、私の手近にあった日本国語大辞典で「おなじ」をひいてみましたが、「体言に続く時には、「おなじ」と「おなじき」と二つの活用形が用いられた」と説明されています。
何形と書いてないところが、ずるいところですね。
ということで、「おなじこと」の「おなじ」は、
一般的な活用表から、終止形とも説明するし、
接続から連体形とも説明されます。
また、特殊な例なので、いっそのこと形容詞と呼ぶのをやめて、連体詞と呼んでは、という説明も可能です。
文法というのは、文法がさいしょに出来て言葉が出来たのではなくて、言葉を集めて法則性を見いだそうとしたものですよね。
だから、時には、こんな例も出てくるんですね。
ちなみに、そのメールをくれた人は、私の動画の新たな間違いも見つけてくれました。
ミスが多くて恥ずかしいよ。気をつけます。