李徴は皇族出身?
隴西の李徴は博学才頴・・・・と
隴西は地名で、これは彼の父祖の出身地、つまり李氏の出自を語っています。
この小説は、清朝の説話集の中にある「人虎伝」という物語を素材にしています。
さらに「人虎伝」は、唐代に書かれた「李徴」を脚色して書かれたものだということが、わかっています。
その「人虎伝」ですが、はっきりと「隴西の李徴は、皇族の子」と記されています。つまり、彼は超セレブであるという設定です。
唐王朝の初代高祖である李淵は、隴西の人ということになっています。そこから、唐代の李氏であれば、王室と出身が同じであるということが暗黙のうちに示されているということなのだそうです。
だから、皇族の子と書かれていなくても、隴西の李徴といえば、王族の血を引いた者である、という理解が前提であるというのですね。
作者の中島敦はこのことを当然意識していただろうと思います。
ただ、小説の中に、彼が高貴な血筋のものであるという記述はありません。
出自についてなにか特別な意味を持たせることが、「山月記」の中で作者が語ろうとしていることを、より伝えることになるのか、あるいはノイズになるのか。
この選択は、執筆しながら作者の念頭にあっただろう。
あえて外したのではないか、というのが、私の意見ですが、皆さんはどう思いますか。